Virgin Graffiti

5th ALBUM
『Virgin Graffiti』

2018.11.21 Release

1.逃亡前夜
2.もういいよ
3.完熟宣言
4.She’s Gone
5.おしえない!
6.Stuffed Baby
7.カリフラワー
8.BIG CAR
9.俺がヒーローに今からなるさ
10.あなたの髪をなびかせる
11.まあだだよ
12.Cry for the Moon
13.このままがいいね (Album Mix)

TETRA-1012
¥2,700+TAX
発売元:TETRA RECORDS
販売元:PCI MUSIC
Art Direction & Design:前田晃伸
Cover Photo:Chihiro Lia Ottsu

自主レーベル「TETRA RECORDS」立ち上げ後初のアルバムとなった前作『Friends Again』で、ソング・ライティング、アンサンブルともに滋養とシンプリシティを究めた“プレーン・ロック”を奏でたシャムキャッツ。デビュー以来のその時々においてインディー・ロックの最もみずみずしい形を聴かせ続きてきた彼らが、今再び自らの興味の湧き出るまま、多様な「2018年の音楽」を描き出す。それはまるで、彼らが常に抱き続けてきた純真性が鮮やかに解き放たれたようでもあり、彼らの内に召喚された少年・少女が歌う「成熟したジュブナイル」のようでもある。

ヴァーサイタルなプレイで自在な筆致のリズムを書き込んでいく大塚のベース、個性を維持しつつも繊細さと力強さのバランスを更に増した藤村のドラム、各曲を牽引しながらその魅力を最大限に引き出すフレーズを配していく菅原のギター、前作での練達を経て今一度好奇心に満ちた冒険に飛び込んでいくような夏目のソング・ライティングと歌詞世界。オルタナティブ・ロック、ネオアコ、フォーク・ロックetc.これまで彼らが自らの音楽に混ぜ合わせてきたそれらをより深く消化しつつ、時にハウス・ミュージックやオルタナティブR&Bまでもを射程に捉えたような、今こそ、そしてこの先も長く聴かれるであろうバラエティに富む軽やかな傑作となった。

何かを失うこと、さよならをすること、つい逃避してしまいたくなること…日々もたげて来るそんなことを、とりあえずは音楽という壁に、心の赴くままスケッチしてみよう。
その落書きはきっと、今までだれも見たことのないような、そして一度見たならばきっと心の何処かに触れてくれる素敵なグラフィティになるはずだから。
今日も僕たちと遊んでよ、シャムキャッツ!

VIDEO


teaser1
teaser2
music video

MEDIA

RADIO

Inter FM パワープレイ「Hot Picks」11/5(月)~11/18(日)
Tokyo FM 「JAPAN MUSIC SHOWCASE」11月マンスリーゲスト ※夏目・菅原
11/14(水)放送 Tokyo FM 「TOKYO FM WORLD」※夏目・菅原
11/21(水)放送 JFN15局ネット「Seasoning」※夏目・菅原
11/25(日)放送 FM FUJI 「SUNDAY PUNCH」※夏目知幸
11/28(水)放送 Inter FM 「Happy Hour!」 ※夏目・菅原
11/30(金)放送 Tokyo FM 「SHOCK THE RADIO」 ※夏目・大塚
11/30(金)放送 TBSラジオ「アフター6ジャンクション」LIVE&DIRECT(スタジオライブ) ※シャムキャッツ
12/3(月)放送 TBSラジオ「オーディナリーミュージック」 ※菅原慎一

MAGAZINE

11/15(木)発売 「レコード・コレクターズ」12月号 ※菅原慎一インタビュー
11/15(木)発売「MUSICA」12月号 ※レビュー
11/20(火)発売「CDジャーナル」12月号 ※シャムキャッツインタビュー
11/20(火)発売「ミュージックマガジン」12月号 ※レビュー
11/24(土)発売「men’s FUDGE」12月号 ※レビュー

WEB

11/20(火)20:00配信「チルテレ」※シャムキャッツ
11/23(金)公開「Mikiki」 ※シャムキャッツ インタビュー
12/7(金)公開「音楽ナタリー」 ※シャムキャッツ 特集

OTHER

島村楽器全店(一部専門店を除く)デジタルサイネージ・店内放送
シブヤテレビ 11/21(水)~11/27(火) O.A.
タワーレコード店内放送 11/14(水)~11/27(火) O.A.

TOUR

Tour “Virgin Graffiti”

大阪公演

2019年3月1日(金)
会場:umeda TRAD
開場/開演 : 18:30/19:30
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:清水音泉 06-6357-3666

福岡公演

2019年3月3日(日)
会場:the voodoo lounge
開場/開演 : 17:30/18:00
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:BEA 092-712-4221

京都公演

2019年3月16日(土)
会場:磔磔
開場/開演 : 17:30/18:00
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:清水音泉 06-6357-3666

岡山公演

2019年3月17日(日)
会場:ペパーランド
開演/開演 : 17:30/18:00
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ :CANDY PROMOTION岡山 086-221-8151

浜松公演

2019年3月21日(祝)
会場:FORCE
開演/開演 : 17:30/18:00
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:BOOM BOOM BASH : 054-264-6713 (12:00〜17:00)

札幌公演

2019年3月23日(土)
会場:SOUND CRUE
開場/開演 : 17:30/18:00
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:WESS 011-614-9999

宮城公演

2019年4月5日(金)
会場:enn 2nd
開演/開演 : 19:00/19:30
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:GIP 022-222-9999

新潟公演

2019年4月6日(土)
会場:CLUB RIVERST
開場/開演 : 18:00/18:30
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:FOB新潟 025-229-5000

金沢公演

2019年4月7日(日
会場:GOLD CREEK
開演/開演 : 18:00/18:30
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:FOB金沢 076-232-2424

名古屋公演

2019年4月18日(木)
会場:CLUB QUATTRO
開演/開演􏰂􏰅 : 18:30/19:30
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:ジェイルハウス 052-936-6041
ジェイルハウス 中嶋

東京公演

日程:2019年4月21日(日)
会場:渋谷 TSUTAYA O-EAST
開演/開演 : 17:00/18:00
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:SMASH 03-3444-6751

沖縄公演

2019年5月24日(金)
会場:output
開場/開演: 19:00/19:30
前売 スタンディング 3,500円 (税込/D別)
問合せ:PM AGENCY 098-898-1331

主催:各地イベンター
企画制作:TETRA RECORDS / AT FIELD inc.

TICKET NOW ON SALE.
全公演 オフィシャル抽選先行受付 12/8(土)12:00〜12/16(日)23:59
http://w.pia.jp/t/siamesecats/

全公演 オフィシャル2次抽選先行受付 12/22(土) 12:00 〜1/6(日) 23:59

プロモーター会員先行・プレイガイド先行 1/10(木)〜

チケット一般発売
2019年1月19日(土) 10:00〜

INTERVIEW

『Virgin Graffiti』オフィシャルインタビュー
<前編>

今回のアルバム『Virgin Graffiti』は、おそらくシャムキャッツ史上最もバラエティに富んでいて、それでいてウェルメイドで、隅々まで彼らのやりたいことが行き届いているアルバムだと言えるだろう。キャリアを重ねてきた中で作られるそういう作品というのは、往々にして密室的になったり時に高踏過ぎたりするものなのだけど、このアルバムのタッチはあくまで軽やかで、四人が思い思い街中にグラフィティーを書いて回っているような、そんな快活さとユーモアにあふれている(それと、みずみずしさゆえの少しの危なっかしさも)。

「特にコンセプトを設けず好き曲をつくった」と彼らは言うけれど、じっさい、不思議と統一されたこうしたジョイフルな肌触りの作品が出来上がるには、そこに至るいろいろなことや、彼ら自身が考えてきたことの変遷があるはずだ。まず、前半ではアルバム制作に至るまでの日々や、どうやって制作に入っていったかを訊いていこう。そして続く後半では、『Virgin Graffiti』の各曲について迫っていく。

●『FRIENDS AGAIN』からの1年半

前作アルバム『FRIENDS AGAIN』リリースからの1年半を振り返ってみて、どんな期間でしたか?

藤村
:けっこう怒涛の期間でしたね。『FRIENDS AGAIN』を出して、それまでより大きな規模の会場を国内ツアーで回って、更に韓国、台湾、それと中国を6箇所回る初の本格的な海外ツアーというのもあって。目まぐるしく活動していた気がします。……で、日本に戻ってきたら、山口さん(マネージャー)が体調を崩してチームを去るというのがあって……。

大塚
:そこから更に怒涛の日々になっていった。

忙しさとしてはバンド史上一番の期間だった?

大塚
:2018年に入ってからは特にそうですね。

菅原
:でも、なんだかんだで毎年そういう感じになっている気もしているけどね(笑)。なにかしらで常に動き続けている。

大塚
:四人だけで運営するようになって業務的には大変だけど、かえって余計なストレスもなくなったので、そこは良いところだなあとは思います。

藤村
:もう全部オープンにしてやっていくしかないしね(笑)。

そういう変化が、曲を作ったりライブを行うといったバンドの活動自体に及ぼしたことは何かありますか?

夏目
:俺は、そうやって大変な状況を経たからこそ、バンド以外のことについて考えない毎日になって。ハプニングはあったけど、制作するっていうことにおいてはむしろ良い環境になっているとおもう。

集中度が上がっている?

夏目
:そう。それと、幸か不幸か歌いたいテーマがどんどん出てくる状況に置かれたから、創作に油が乗り始めたなってのは感じてます。

事務的なところも含めて、DIYでやっていこうと決心した瞬間というのはあったんですか?

大塚
:現実として「このままがいいね」が出せるのか出せないかみたいな状況だったし、決心をしている暇もなく……(笑)。

菅原
:やっぱり「このままがいいね」を自分たちだけで出した瞬間が一番「うおー!」って気合が入った感じがしますね。メンバーの家に集まって梱包作業をしたりとか、本当に僕らの手元からお客さんの手元へ作品が渡っていくんだなっていうのを実感して。

それを期に色々在庫整理したんですよね。その作業も怒涛。夏目の家にあるグッズをみんなで整理して引き上げるっていう(笑)。部屋を掃除すると心が整うって言うけど、そういう感覚に近いかもしれない。

夏目
:山口さんがいなくなってしまったっていうのは、俺たちが知らないところで負荷がかかっていたってことでもある。その負荷ってバンドにとっても良くないことだと思うから、かかっていた負荷が何だったのかを明らかにして、それを浄化しないといけないなって思ったんです。大変だったけど、みんなでそういう作業をしたんですよね。

今まで活動してきた中で溜まっていた望んでいなかったそういう負の部分も、出来る限り洗いざらいにしてプラスの価値に変えていって。その経験を通してみんな人として強くなっていったというのはあると思いますね。

一般的に、アーティストはビジネスと直接的に関わらないほうがいいという見方もありますよね。けど、そんなこと言っている場合じゃないと(笑)。

夏目
:そうそう。環境がそうさせてくれないっていう(笑)。

菅原
:もし本当にビジネスをやりたいんだったら、もっと違う事業を考えるけど、それは絶対にないですし。あくまで自分たちの音楽をやっていくためだから。

大塚
:そもそもそんなに「ビジネス」っていう感覚でやっていないですね。

夏目
:そのつもりだったらいかにも売れそうな曲書けばいいしね(笑)。

ビジネスと絡むことで創作の部分がうまく行かなくなってしまうみたいな場合もあると思うんだけど、シャムキャッツの場合はその気配がまあ見事にないですよね(笑)。明確なビジョンがあるからっていうより、四人がずっとやってきたサイクルの中で、やりたいことが常にあるのが普通っていう状態だからこそ、いろいろなことが起こったとしてもじっくり活動を続けて行けているのかなって。

夏目
:今でもことあるごとに思い出すのは、2011年の震災のときのことなんですよね。「それでもやっぱり続けていこう」ってその時思った人たちは強かったんだなって今にして思う。

僕らも、危機が迫ってもなんとか自分たちのやれることを見出しながら地に足をつけてやっていかないといけないな、ってその時に思えたんだと思います。さすがに7年以上経つと今はそういう話をする人は減ってきたけど、未だに自分の中ではあの時の経験が大きいものとしてある。

ーだからこそ、今年に入ってからのバンドにとっての大変な状況も、むしろ足元を再度確かめる機会になった?

夏目
:そうだと思います。

●「このままがいいね」「カリフラワー」に帯びた希望の色彩

装飾を排した「プレーンなロック」と評された『FRIENDS AGAIN』を経て、「このままがいいね」「カリフラワー」と2枚のシングルがリリースされました。今振り返って、この2作はどんな存在でしょうか?

夏目
:『FRIENDS AGAIN』は俺にとって、バンドの骨組みをしっかり作ってそれ自体を見せるようなアルバムだったんです。もちろん、その骨組みだけでちゃんと聴かせないといけないから、「しっかりした大きな柱で家をつくる」って感じで、無骨でシンプル。それを経て自信を持てたから、次はもう少し色彩を帯びたものを作りたいなという気持ちが出てきたんです。「このままがいいね」では、もう少し外に向かうものを作らなきゃって気持ちになっていったんです。

それと、『FRIENDS AGAIN』を作っていたときは、割と現実的で少しニヒルな感覚だった。世の中そんなにうまく回らないし、現実はそんなに明るくないし、ヘラヘラやっているだけじゃ何も前に進まない、っていう気持ちを出そうっていうのがあったんですよ。けれど、「このままがいいね」あたりからは、じゃあその現実を知っている人はどうやって生きていけばいいのかとか、ちょっとした希望っていうのはどうやったら抱けるんだろうかって、更に先を考えていったんですよね。その変化が出たんだと思います。

菅原
:『FRIENDS AGAIN』は、四人がシンプルに演奏してアンサンブルそのものを聴かせるアルバムだったと思うんですけど、それを経たことで、そのアンサンブルの更に先に行けたらっていうのもありましたね。

『FRIENDS AGAIN』の場合はアディショナルなアレンジがほぼ無い印象でしたが、「このままがいいね」や「カリフラワー」は、それに比べて色々な要素が散りばめられていると感じます。

菅原
:そうですね。アンサンブルがしっかりある上に更に情緒や感情を塗っていく作業というか。だからその2枚は、それを怖れないで積極的にやっていくっていうシングルだったと思います。それって、なかなか危うい繊細なバランス感なんですけどね。

大塚
:そう、やっぱり経過途中という感じも強いですよね。バンドっていうのはやっぱりそんなに急にパッと変われるものでもないし、その中で培ったものを活かすという意味でシングルを2枚、それと台湾の落日飛車とスプリット盤という形で「Cry for the Moon」を出せたのは大きいですね。

『FRIENDS AGAIN』を経て、曲の芯がしっかりある中でのバラエティや彩りというのが出せたと思う。特に作曲者の二人(夏目、菅原)はそういう意識に変わっていったんだろうなと思います。

菅原
:たしかに、それまでに比べて骨組みをガッチリと固めた状態で制作するという感じかもな。

●音づくりの新たな視点と、飛び出したエモーショナル

今回の『Virgin Graffiti』を作る前、「もしかしたら『たからじま』みたいなアルバムになるかもしれない」って夏目くんに言われて印象的だったんだけど、たしかにバラエティ的な面やデコラティブな面でそういった感覚は共通しているような気がする。けれど一方で、『たからじま』はベーシックな骨組っていう面でいうとかなりカオティックというか……(笑)。今作は骨組みも装飾も、その双方がしっかりしていると感じます。装飾的な部分への意識の変化っていうのは、自分が刺激を受ける音楽が変化したりといったことも理由としてあるんでしょうか?

夏目
:そうですね。EP「君の街にも雨はふるのかい?」を作っているあたりから、何故か家ではクラブミュージックばかり聴くようになっていって。四つ打ちとか以前まで毛嫌いしていたはずなのに、今は大好きになってしまって。特に今は同時代のテクノがしっくりきている。テクノって音そのもの自体の勝負なんですよね。音がいかに気持ちよくコントロールされているかっていう世界。

音のテクスチャーが一番重要。

夏目
:そういう音楽ばっかりきいていると、自分たちのようにドラム、ベース、ギター2本っていうロックバンドの形でやるときも、やっぱり一つ一つの音をちゃんとキラキラさせられているかどうかを厳密に判断して作っていかないと、どんどん強度が弱くなってしまうと思うようになって。

もともと良い音でロックをやりたいっていうのはあったけど、もっと進んだレベルで音の粒一つ一つに執着して、それをスピーカーから鳴らすっていうことが録音芸術なんだっていうのが、テクノを聴くことで自分に浸透してきたんですよ。そこで学んだことがだんだん自分のイメージに近づいてきているのが『Virgin Graffiti』。まだ全然完成形ではないと思っているんですけどね。近頃はそういう価値観で音を作り始めたなって自分でも感じている。

先端的なロックバンドこそ意識的になりつつある点かもしれないですね。そういう音へのこだわりと、ロック的表象とどうバランスをとっていくかって、とても重要な点だとおもうんだけど、『Virgin Graffiti』はそれを鮮やかな形で提示しているなと思います。

夏目
:今の時点では良いとこ突けてるぞって思ってます(笑)。

リハやプリプロを行う中でみんなで議論を行ないながら曲を仕上げていくと思うんですが、自分達のプレイを今言ったみたいな視点で俯瞰して見るっていうのもあったんでしょうか?

藤村
:そうですね。なんて言えばいいのか……プレイのテイストっていう点でいうと、日本らしさが出てもいいんじゃないかっていう話はした記憶があります。いわゆる「USインディーを通ってきました」的な感じじゃなくて、日本の匂いみたいなのがにじみ出るような曲が並んでてもいいんじゃないか、と。そういう微妙なクセみたいなのはいい塩梅にプレイとしても出ているかなって思います。

たしかにドラムのフィルとかでも……海外のクールなバンドはそれしないだろうみたいなの、ありますね(笑)。

菅原
:その感じはみんなありますね。曲を作る側としては「ここはこれくらいのプレイで止めといて」というのもあるんですけど、今回はわりとみんな溢れ出ているなって(笑)。

緻密に音をコントロールして作っていく方法を取っても、バンドだからこそやっぱり溢れ出てくるものがある。それがシャムキャッツならではの個性を形作るっているんだとも思います。

菅原
:しかも、個々人で色んな溢れ出方がある。ドラムのフィルの音数だけじゃなくて、弦楽器のトーン感とかタイム感とか、みんなどっかしらに溢れ出ているなあっていう。なんというか……いわゆる手癖とも違った……エモさみたいな(笑)。『FRIENDS AGAIN』のときはそれがあんまりなかったけど。

夏目
:たしかにエモさは出現しがちだよね。俺はそこはかなり意識してプレイしたかもな。アコギのストロークでも、定形的な手法は『FRIENDS AGAIN』で既に作れてて、こうすればいいバッキングになるっていうのはなんとなく掴めているんだけど、あとはどこでどう飛び出すかだなっていうのは課題として考えていたんですよね。今回そこはうまく行っている気がする。

菅原
:その飛び出し方がみんな上手くなっているってことなんだろうね。それこそ『たからじまの』ときって、何も考えないで飛び出していたから……(笑)。

夏目
:ずっと飛び出しっぱなしっていう(笑)。

大塚
:全員やみくもに飛び出しちゃっているから、そもそもの基点がわからないみたいな感じ(笑)。

菅原
:今回は、「俺が飛び出すとき誰々は飛び出さない」みたいなのがあるかも。「逃亡前夜」の間奏のギターもバンビ(大塚)がフレーズを考えていたり……。

大塚
:「逃亡前夜」は、Aメロとか特に俺は何もしてないといえばしてないんですよ。だから、抑えるところと飛び出すところの緩急をつけて。

菅原
:ドラムも打ち込みっぽい録り方をしたのに、急に途中から人間くさいプレイが入ってて。

そいういう風にプレイ上にもある種のエモーショナルさが出てくるっていうのは、さっき言った山口さんとの離別による喪失感なども背景にあるんでしょうか?

菅原
:僕の場合は、気持ちが一回荒野みたいになってしまって……。ここから再び創作に向かうには自分の中で革命を起こさなきゃって強く思ったのっていうのが大きいかもしれないですね。火種となるエネルギーや感情をもう一度灯すっていうか。

音楽的なモチベーションが荒野になったっていうこと?それともバンドっていう組織が荒野に立たたされることになってしまったっていうこと?

菅原
:両方ですかね。音楽的な面でいうと、切れる手札という意味において、シャムキャッツは結構やり尽くしてきたなと思っていて。それでも自分ができることってなんだろうって考えたら、自然とエモーショナルな方向になっていきましたね。

エモーショナルさと音響の緻密な配置みたいなものを意識的にバランスさせるってなかなか簡単ではないと思うんだけど、そのあたりはどんなことを考えながら制作したんでしょうか?

夏目
:エモーショナルさをそのままデカイ音としてぶつけるとかじゃなくて、エモーショナルさを音の配置として置いていくっていう感覚ですね。設計図の中にエモーショナルさを取り込む。自分の中にイメージしているものがデモとして形作れていなかったときは、歌にハートがないとか、気持ちが入っていないとかじゃなくて、楽曲の構造やコード進行がそういう感情を表現するのに適したものになっていないからなんだっていう判断を最近はしてます。

感情にもそれに適した個別の音なり要素があって、それを操作しているという感覚?

夏目
:そうですね。『FRIENDS AGAIN』を出した時、知り合いの写真家から電話がかかってきて、「アルバム聴いたけど、なんか元気がなくなちゃっていく感じであんまり進んで聞けないんだよね」って言われて、ちょっとカチンと来たことがあって。「今回のアルバムは鏡みたいって言われてるから、元気ないだけなんじゃないですか?」って言ったんですけど(笑)。

でも、まあ確かにそのきらいはあるなとも思って。次の作品はどうせなら聞く人が元気になる方がいいなっていうのはあったんです。そうすると、エモーショナルなものを表現するにしても感情をそのまま注ぎ込むんじゃなくてあくまで音楽的に構築していきたいと思ったんです。具体的には、歌い方とか、ギタープレイの機微、そういうので表現できたらいいなっていう。

アコギのストロークのパターンとか?

夏目
:そうです。基本8分で2とか4のところでアクセント入れているけど、たまに16のフィーリングを入れてみるとか、1や3の奇数のところでアタックを強めにするとか、そういう微妙な配置の違いでドラマを作るイメージですね。

●レコーディングと同時期に経験した初のFUJI ROCK FESTIVAL出演

この期間バンドが経験したもう一つ大きなこととして、初のFUJI ROCK FESTIVAL出演があったと思います。どんな経験でしたか?

藤村
:分かりやすく短期的な目標が出来て、ここにフジロックがあるぞっていうことで気持ちが引き締まりますよね。同時に並行して今作のレコーディングをしていたっていうのも良かったなと思いますね。

大塚
:レコーディング期間中の緊張感を保つって意味でも大きかったですね。僕はそんなにフェスというもの自体に馴染みがないから割とフラットにかまえていたところがあったんだけど、おそらく思い入れが強いであろう他の3人も意外とフラットな感じでフジロックに臨んでて、アレ?って思ったり(笑)。

菅原
:どういうこと?(笑)。

大塚
:やっぱここ一番の見せ場だし、エモーショナルな感じのライブにしていくのかなって思っていたんだけど、意外にセットリストとかもクールに判断してて。

冷静さも感じたけど、観ている方としてはやっぱりエモーショナルだったけどね(笑)。

夏目
:やっぱりライブって不思議だよね。俺ら以上にお客さんのエモーショナルさを感じた。

菅原
:やっぱり祭りごとって大事なんですよね。

夏目
:急に人類学者みたいな(笑)。

菅原
:祭りの時にだけに生まれる特別な感情があるって以前に本で読んだんだけど、そういうパワーってあるじゃない。僕たちもみんな祭り好きなんで。あんなに沢山の人が好きなものを一緒に観に行っている場ってすごいエネルギーがあると思うし、しかもその中心に音楽がある。素晴らしいと思います。

大塚
:圧倒的に俺たちのほうがエネルギーを受けたって感じでしたね。

菅原
:だからフジロックロスがずっと続いていて……。

ロス長くない?(笑)

菅原
:また出られるまでロスが続く(笑)。

夏目
:フジロックはやっぱり一番信じているイベントだし、妙に緊張がなかったっていうのは、自分の中のいい音楽をちゃんとやれば絶対大丈夫っていう確信があったからなんですよね。きっとそれだけでお客さんも良いって思ってくれるだろうって。

楽曲制作の作業にその経験の影響はあった?

夏目
:もっと大きいステージに出たいって思っているから、そういうステージに似合うような楽曲を作りたいなってイメージは常にありますね。

菅原
:「このままがいいね」を俺と夏目で作る時、ホワイトステージで踊れるイメージって言っていた気がするね(笑)。

でっかい感じ。

夏目
:これまであんまりでっかい感じをやってこなかったから、そういうのがあってもいだろう、っていう。

そういう風にライブ空間でたくさんの人たちとつながっていく感じやオープンなイメージっていうのは、『Virgin Graffiti』の内容にも通じるような気がしますね。色々な方面へ向けてオープンマインドな感じ。

藤村
:ライブもしつつ、レコーディングもしつつ、物販作りつつ、その他いろんな業務もやりつつっていう、沢山のチャンネルに気持ちを開いて並行してやっていくっていうのが俺らには向いているのかなってのは最近思いますね。あんまり一つのことを根詰めてやっていくのは向いていないって思って。無理しすぎずバランスとってやっていくことで相互にいい影響が出てくるバンドなんだなと思います。

それはDIYで色々とやっているからこそ培われるマルチチャンネル感なんだろうね。

藤村
:祭りが好きっていうのもそこに通じるかもしれない。常になにがしかバンド内外でわちゃわちゃ起こっているっていう。

●「とりあえず好きにやってみよう」が、自然とみんなの生活につながった

『Virgin Graffiti』からは、バンドがそうやってワイワイと遊んでいる感じや、一緒に遊ぼうよって言われているような感覚も覚えます。そういうイメージはどうやってバンド内で共有されていったんでしょうか?

夏目
:『FRIENDS AGAIN』がツアーも含めてうまくいった分、はじめは「次の作品はスベれないぞ」ってメンバーに言っていて。ちゃんとコンセプトを持って作品として評価されやすいものを作って、大きなハコを埋めるみたいなプランを立てないとこの先レーベル運営も大変だなってのもあって。「次の一手はこれだ!」っていう、分かりやすいものをちゃんと作ろうって思っていたんですよね。

でもメンバーと接しているとみんなあんまりそういうモードでもないのかなあという気もして。みんなが好きにやりたいんだったらまあ好きにやればいいかってモードに何となく変わっていったんですよね。

そうなってからは、じゃあ俺もあんまりコンセプトみたいなものを考えずに、好きに曲を作ってみようかなあって思って。そしたら急に楽になって色々面白い曲が出来てきたんです。

大塚
:最初のうちは、夏目、肩の力入り過ぎてるんじゃないかなって感じてたし、こういう時って簡単に曲はできないだろうからとりあえず様子見ようって思ってましたね(笑)。

それでフッと出来てきたのが「カリフラワー」だったということが象徴的だと思うんです。ただ普通に良い曲が出来たっていう。もしかしたらそれは夏目としては不安だったかもしれないけど、俺はそれでいいんじゃない?って思っていた。

コンセプトが伝わりやすいとかそういう意味での完成度でいったら「カリフラワー」は違うのかもしれないけど、シャムキャッツのスタンスを貫くにはこの曲だろうと思った。だから僕はむしろホッとしましたね。

菅原
:「カリフラワー」って、アルバム全体の方向性が決まった決定打だったなと思いますね。「カリフラワー」がシングルになっていなかったら、アルバムも違う内容になっていたと思います。

そうやって湧き出てくる曲を興味のままとりあえず俎上に載せてみて共通するテイストを取り出してみたら、どこか前向きな感じだったり、少年性みたいなものが見えてくるっていうのがとても面白い。

夏目
:そうなんですよね。アルバムが完成してみて自分でもそう思いました。

菅原
:自分がやりたいことを素直に曲にしたら、すごくパーソナルなことなのに自然とみんなの生活とつながっていくような感覚がある。シャムキャッツってもともとそういう部分があるバンドだと思うけど、更にそういう風になっていっているような気がしてます。なぜそうなっているのか、自分でもよくわからないんだけど……僕らが大人になったからなのか……。隙間とか余地の作り方が無意識的に上手になっているのかもしれない。

大塚
:いいことだよね、それは。

コンセプトは特に設けなかったってことを聞いて改めて思ったんですが、思考の枠組みを先に作っておいてそれに曲を当てはめていくっていうのは、本来あんまみんなに向いてないのかもしれないね。思えば『AFTER HOURS』にしても、コンセプト・アルバムという風に見えるけど、徐々に共通するトーンみたいなものが浮かび上がってきたものだったと思うし。

夏目
:そうなんですよね。

大塚
:最初は本当にバラバラなアルバムになるんじゃないかなって個人的に思っていたんですよ。でも、並べてみたらなぜかうまくまとまったなあって思っています。

夏目
:曲順もだし、やっぱりジャケの力もあるよね。

●「一番かっこいい本」のデザイナーとつくったアートワーク

アートワークは「POPEYE」のデザインでも著名な前田晃伸さんが担当してくれました。前田さんとはどういう経緯で知り合ったんですか?

夏目
:「このままがいいね」のジャケットを作る時、デザインを誰にお願いしようかなって話になって、その時アートディレクションをやってくれた長畑くんに候補の人の情報を送ってもらったりして。

でも、とりあえず一回そこから離れて自分の持っている本の中で一番かっこいいのをデザインしている人に頼もうと思ったんです。で、「TOO MUCH MAGAZINE」っていうすごくカッコいい本があって、デザインのクレジットを見たら「前田晃伸」って書いてあって。あ、この人の名前知ってるなって思ってたら、ちょうど長畑くんも、「僕も前田さん良いと思っていたんですよ」って言っていたから、じゃあ是非お願いしてみよう! となったんです。

今回は、すべてお任せで作ってもらった?

夏目
:そうです。曲を聞いてもらって、任せますっていう。

アルバムの内容を見事に汲んでくれた素晴らしいアートワークになりましたね。

夏目
:最初にアルバムのアートワークについて話したとき、なにか自分の中に明確なイメージがあってそれに近づけたいのか、それとも新しい視点やイメージが加わること、どっちが好きかって訊かれたんです。僕は圧倒的に自分が予想していなかったことで驚きたいタイプなので、後者の方が良い。自分の狭い想像の世界より、新しいものがほしいって言ったんですよ。

あと、前田さんと打ち合わせで話してて、なんとなくこれは絶対良いものが出来るなって思ったことがあって。前田さんは当時リアルタイムでプライマル・スクリームが好きだったらしいんですけど、やっぱ1stが一番好きだったらしくて。で、『スクリーマデリカ』が出た時引いたらしいんですよ「え、ギターポップじゃない、なにこれ?」って。

でも、「そのときはびっくりしたけど、今となっては『スクリーマデリカ』だよなって気がしてる」と言っていて。「フォーマットがあってその中でどうやってつくるかじゃなくて、なにか最高のものがあって、こういうものが作りたいってそこにみんなが群がっていくっていうスタイル、そっちのほうがバンドらしいんじゃないかと思う」って。

で、「今回の作品ってまさにそういう感じになってきているってときの作品だよね」って言われて。俺も「あー! それ当たってますね、その感じで作ってください!」って言って出てきたのがこのジャケ。やっぱりすごいなあ、って思いましたね。

新しいアーティスト写真も、メンバーの旧知でもあるalthouseの山中俊太朗さんにディレクションしてもらっていますね。

夏目
:バンドの写真って難しいんですよね、すぐに時代に流されてしまったりするから。そういう事を考えた時、今しかないドラマとか動きを捉えたいなと思っていて。

俊ちゃんが連れてきたカメラマンの嶌村吉祥丸くんがサッカーをずっとやっていた人で。最近はロシアのサッカーワールドカップの写真を撮ったりしていて、そういう動きのある被写体を捉えるのがとてもうまい人だったからお願いしたんです。まだ公開していないものもあるんですが、とてもいい写真を撮ってもらえたなと思っています。

バンドが「今」という時間と空間の中にいるのを、とてもうまく捉えてくれていると思います。そうやって、音楽以外の部分でもみんなで「仕事だから」って感じじゃなくて楽しみながら作られたアルバムになっているなあと改めて感じます。それこそ今回またA&Rをやらせてもらっている僕も同じなんだけど(笑)。

『Virgin Graffiti』オフィシャルインタビュー
<後編>

●1.「逃亡前夜」

なんといってもダンスミュージック的な4つ打ちビートが印象的ですね。録り方も特殊でしたよね。

夏目
:最初は僕が家でデモを作って。その後みんなでプリプロを作ってレコーディングに臨んだんですけど、プリプロと宅録デモを聴き比べた時、レコーディングエンジニアの(柏井)日向さんが、「曲の雰囲気的に宅録の方がイメージが伝わるものがあるから、こっち(宅録デモ)に寄せた方が良いんじゃない?」って提案してくれたんです。

大塚
:デモで使っていた音源データをそのまま日向さんに渡して、それを元に生音に差し替えていくっていう工程ですね。

ドラムセットをパートごとに別々で録るっていうのは初めて?

藤村
:実は初めてじゃなくて、「忘れていたのさ」でやってはいるんですが、あれはビートじゃなくて装飾音としてやった感じ。今回のようにビートをバラで録るというのは初めてですね。

同じ4つ打ちでも、かつての「踊るロック」とか、J-ROCK系の人たちの間で流行ったような4つ打ちの感覚とは全く違いますよね。
ロックバンドとして、ダンスミュージック的要素を取り入れるっていうのってやっぱり刺激的?

夏目
:単純に楽しいですよね。

藤村
:ダンスミュージックどっぷりっていうわけじゃなくて、あんまり洗練され過ぎてないのがいいですよね。あくまでもロックバンド的で。

ーそうだね。ギターのリフが入ってくるところとか、特にロックを感じる。マッドチェスターから続くUK的感覚も……。

菅原
:僕は近年、モジュレーションを効かせたギターのリフを今的な感覚で配置することに執着してきたこともあるのですが、この曲では洗練されたロック感を提示できたかなと思ってます。

夏目
:ミックスも僕らのバンド感が活かされるものになってるし、歌詞の主人公も苛まれている割には出口の見つけ方が雑と言うか、軽いですよね。そこらへんがUK感に繋がるかも。

藤村
:ダンスミュージックだともっとミニマルなリズムパターンで構成されると思うんですけど、この曲にはもっと無邪気さがあって、それがバンド感を出すことになっているんだと思う。

大塚
:ギリギリでロックというラインですよね。おそらく、今回の録り方ではなくて、普通にせーのっていう同時演奏のやり方で録ってしまったら、バンドにとっての新しさは無かっただろうなとも思います。

音の新鮮さもさることながら、タイトルと歌詞のインパクトも強い。

夏目
:前作の『Friends Again』って、基本的に善人ばかりが出てくるアルバムだったなあっていうのがあって。もちろんあのアルバムの世界観にはそれが合っていたわけだけど、今回はやっぱり、善人だけじゃなくてしくじっちゃったヤツも出したいって気持ちがあったんです。
曲がほぼできてきて歌詞を考えている時に、ツァイ・ミンリャンの『青春神話』っていう映画を見たんですよ。主人公がゲーセンから「スト2」の基盤を盗んで、地元のチンピラに売ってお金儲けしようとするんだけど、「これ俺のゲームセンターで盗まれたやつじゃないか」ってなって、ピンチ!って挿話があって。そういうしくじり感(笑)。くだらないけど、青年にとっては大ごとなわけです。そいつの彼女っていうのも、もともとそいつのお兄ちゃんとヤッていたところを覗いちゃったことで知り合ってみたいな……ヒリヒリした青春劇なんだけど、そういうのを俺も曲にしたいって思った時、曲名と歌詞が決まった感じですね。

途中、落日飛車のKuo KuoとコガソンのKim Wonjunによる台湾語と韓国語のモノローグが入ってますが、これもそういったアジア映画からの影響?

夏目
:そう。

そういったアジア的なテイストって、バンドにとって引き続き重要なインスピレーションになっているんですね。

夏目
:そうですね。アジアにツアー中って、クラブに行きやすいんですよ。遊びすぎても次の日やらなくちゃいけないことないし、気軽に行けるから。
日本のクラブでは会わなそうないろんなタイプの人たちが集まって思い思いに踊っている。その景色がすごく好きで。『Friends Again』の「台北」って曲も、もそういう体験が直接のきっかけで出来た曲なんです。
台北のクラブで踊っていると、服のはだけた女の子が、「どっからきたの?」「日本だよ、ここ、いい街だね」「え〜、この街退屈だよ」みたいな、そういうなんでもないコミュニケーションが自分にとって心を楽にさせてくれるんです。だから俺たちがダンスミュージックを演ろうとすると、アジアのテイストが入ってくるのかも。

大塚
:メンバーみんなアジアの街の風景も好きですね。その街の人達とも波長が合うし。

夏目
:日本のような固さがあんまないっていうか。香港の『イップ・マン』っていう格闘技映画を最近見たんですけど、空手の形の「ハッ!ハッ!」みたいな固さがなくて、もっと柔らかくて、踊っているように武道をするんですよね。俺もあの感じが欲しいなって思って、荻窪に道場を見つけたから通おうかなって思っているんですけど(笑)。

この曲はMVも公開されましたね。

夏目
:これはね、すごく手が込んでる。

大塚
:シャムキャッツ史上もっとも手が込んでるかもね。

夏目
:「このままがいいね」のビデオの編集をやってくれた代田(栄介)くんにディレクションをお願いしているんですけど、彼の作品をみて、ビートに映像や文字を連動させるのが上手い人だなあとおもって。「逃亡前夜」のビートを活かして代田くんに映像を作ってもらったら、今までと全然違うものが出来るんじゃないかなってひらめいたんです。

●2.「もういいよ」

これはわりとフォーキーな路線で、シャムキャッツが得意としてきた世界が更に深みを増した印象です。リズムがハネているのも特徴的。

大塚
:ハネるリズムは結構久しぶりですね。

藤村
:たしかにこういうビートは珍しいかもね。

夏目
:以前も「常習犯」とか「YOU ARE MINE」とかハネた曲あったけど、それらは先にリズムやサウンドのコンセプトがあった上でやっていた感じ。でもこの「もういいよ」は、メロディーが最初からナチュラルにハネて出てきたんです。だから、以前の同じようなリズムの曲とは受ける印象が結構違うと思う。

たしかに歌詞と曲の密着度がとても高く聴こえますね。

夏目
:「変なおじさん」(「ハイサイおじさん」)と一緒ですね。「変なおじさん だから 変なおじさん♪」って。あの曲、最近リズムがハネてるって気づいたんですけど(笑)。自然だからパッと聞きだとリズム的なクセに気づかない。

大塚
:ベースもあからさまにシャッフルしている感じに聞こえるのを避けて、グルーヴィー過ぎないように気をつけていて。

菅原
:ギターはすごい後ろノリですね。パートごとのグラデーションが綺麗になるように。

夏目
:いい感じだよね、ちょうどいい。あと、構成的にはなるべくコンパクトな曲にしたいなっていうのがあったんです。コード進行とか実は結構変だし、展開するタイミングもズラしているんですよね。実はこれ、ファーザー・ジョン・ミスティの音楽を研究した結果を自分たち流に落とし込もうっていう意識があったんです。

大塚
:音像のキラキラ具合もね。

藤村
:みんなでファーザー・ジョン・ミスティに来日公演を見に行って、すごく刺激を受けた時期に作った曲だね。

そうなんだ〜。それはちょっと意外だったかも。彼って達観した仙人的イメージがあるから、それがシャムキャッツと結びつかないのかもな(笑)。でも曲自体の捻りとか、ウェルメイドなソング思考っていう面は共通するものがありますね。

●3.「完熟宣言」

菅原くんの作詞作曲ですね。曲調にも歌詞にも、エモーショナルさをとても感じました。

菅原
:歌詞とメロディーが同時に出てきて30分くらいで一気に書きあげました。ゆっくり起きた日に、朝ごはん食べ終わったタイミングでサラサラっと出てきた。ちょうど雨があがって、家の前のアスファルトの道がキラキラしていて。

前半のインタビューでも言っていた通り、荒れ地だったという菅原くんのマインドに革命が起きたかのような、そういう強いエモーションを感じます。

菅原
:やっぱりチームを離れてしまった山口さんに向けて、自分たちなりの宣言をちゃんと曲として作らなきゃなあって思ったんです。音楽的な捻りとかは全然なくてもいいじゃんって。歌詞も、いちいち調べたり歌詞カードを読まなくても、一聴したらすぐ耳に入るようなものにしました。ただ改めて全体の構成を考えているときに、あまりにもシンプルだから、途中のブレイク部分はバンドアレンジが必要だなと感じました。とてもシンプルなのに全曲飽きがこなくてすごいと思っていたSnail Mailの近作を参考にしましたね。

大塚
:夏目と菅さんの二人で歌うってっいうアイデアはどこからきたの?

菅原
:それは最初からそうしたいなって思ってたんだよね。「エヴァリー・ブラザーズ」のフィルとドン、ポール・サイモンとアート・ガーファンクル、ピート・ドハーティとカール・バラーみたいに。

大塚
:俺と藤村がメインボーカルを歌うっていうのは?

菅原
:それは途中で思いついたんだよね。みんなに歌ってもらおう!って。ベースとドラムだけになるパートがあるから、そこで夏目と俺は歌すらも2人にバトンタッチしちゃったら楽しいかなと(笑)。これからは4人で支えあってやっていかなくちゃいけないしさ。

藤村
:俺とバンビで歌うのは”GET BACK”以来だけど、歌詞があるのは初めてかもしれない(笑)

大塚
:俺はこの歌詞めっちゃ好きなんだよなあ。シャムキャッツって案外みんなへストレートに歌いかけるような曲って無かったんだけど、これはリスナーのことも意識している曲だと思っていて。全員に等しく語りかけている。やっぱり菅さんじゃないと書けないよなって思った。

菅原
:この曲、バンドのこれからについての表明であると同時に、「笑っていいとも」が終わって、SMAPが解散してっていう、そういうテレビの時代、僕たちが青春を過ごした平成の終わりに際しての曲でもあるんです。当たり前だった色々なことが徐々に無くなっていく喪失感の中で、「でもやっていこうぜ」って曲。山口さんとの別れっていうのは象徴としてあるけど、もっと大きな、世の中のみんながそれぞれに味っている気持ちに向けてエールを送っている曲でもありますね。

●4.「She’s Gone」

これは今年Negiccoへ提供した書き下ろし曲のセルフカバーですね。書くのにとても苦労したと夏目くんが話してくれたことがありましたが、具体的にどんなところが難しかったんでしょうか?

夏目
:うーん、言葉にするのもなかなか難しいんだけど……。シャムキャッツがやりたいこととNegiccoというアイドルがやりたいこと、それと、俺が思うNegiccoがやるべきだと思うこと、それらの合致点を見つけ出すのが何より大変でしたね。
ナンシー関がアイドル文化について書いた文章ですごく印象に残っていることがあって。“アイドルという存在との付き合い方は二通りしかない。それはアイドルを消費する側に回るか回らないかだ”と。そして、“アイドルのCDを買ったりとか、ライブに行ったりとかっていう行為を実際にしてない人は、そもそもアイドルにまつわるカルチャーに入るのは不可能なんだ、語ることはできないんだ”っていう。この考え方が今現在も有効なのかはわからないんだけど、僕としてはしっくり来てて。
僕はやっぱり、アイドルといえど普通に同じ時代を生きている人間としてしか見れないんですよ。消費するものとして見ることができない。けれど、アイドルの曲を書くということは、歌い手をアイドルとして消費させるものを作るってことだから、どうすればよいかとても悩んでしまって……。でもやっぱり俺が作るんだから、普通に生きている女性として歌ってもらうと思った。アイドルへ向けてじゃなくて、アイドルをしてる生身の女性へ向けて書きました。

なるほど……。

夏目
:だから、もしかしたら運営の人に怒られるかなって思いつつ、「夢見る頃を過ぎて」っていう一人の人間がリアルで感じるであろう感情やフレーズとかも入れてみたり。幻想の中で過ごしてほしくないとか色々考えました。そりゃ年頃なんだから男性と恋もしたいだろうしなあ、いつも笑顔でいるのも辛いだろうなあとか……(笑)。

完成した曲を僕も聞きましたが、そのあたりの儚さや美しさがとてもうまく出ていて、胸に迫るものがありました。その上で、夏目くんが歌うとやっぱりすごくしっくり来る感じがありますね。

藤村
:こういう女性目線の曲を作れて歌えるのは夏目ならではで凄いと思いますね。

菅原
:サウンドも僕らが得意なことをやってますしね。すごくストレートにキラキラしたネオアコ的な世界になっている。ガラスがきらきら反射しているような音を、エレキギターのピックアップのセッティングを変化させて表現しています。

●5.おしえない!

映画『小さな恋のメロディー』のような、少年少女二人だけの逃避行とか、ちょっと危うさを孕んだジュブナイル性を感じました。

夏目
:映画の話でいうと、この曲、「Call me」って仮タイトルだったんです。今年公開された映画『君の名前で僕を読んで』(
原題
:Call Me by Your Name)からとったんですよね。実は観てなくて、想像の中で作ったんですけど(笑)。あとは『キャロル』とか『リリーのすべて』とか、本人たちにとってはまっすぐなんだけど、社会的には異端なことをしているように映るもの、そういうものの美しさを描けないだろうかっていうのが発端にありました。曲の構成的にもABC→ABCって普通に進むんではなくて、ABC→CBAといような、ある種鏡写し的な進行になっている。

そういう二人だけの濃密な世界でちょっとイケないことをしているような感じもある。それって、この『Virgin Graffiti』っていうアルバム全体に通じている気配なような気がしていて。
爽やかだし前向きだし、少年少女性があるんだけど、夏目くんも以前に言っていたようにちょっと鮮血の匂いがするような。

夏目
:「痛み」ってことかなあ。恋愛における二人だけの時間の危うい美しさ。その中にある「痛み」。曲作り中に友達にオケを聞かせたとき、「カーペンターズみたいだね」って言われたんですよ。全然意識してなかったんだけど、なるほどそういう感覚もあるんだな、って思って。で、改めて「トップ・オブ・ザ・ワールド」の歌詞を見返したら、あなたといると世界のてっぺんにいるような気持ちで、天地創造が見渡せる……みたいな事言うんですよね。

若干アブナイですね(笑)。

夏目
:そう。これはかなりキてるぞって思って。ああ、でも愛とか恋って、時にそこまで行っちゃうよなって思って。社会的に逸脱していると思われても、そこまで行ける危ういフレッシュさみたいなものを表現したかったんです。

オケも流麗なギターのアルペジオからはじまって、バンド全体が流れるように高みに登っていくスムーズなグルーヴ……。

菅原
:僕は意識的に少しだけ違和感の残るリフを考えて入れ込んだり、途中ポリリズムっぽいフレーズの入れ方をしていたりします。川を上る鮭みたいなニュアンスというか……そういうダイナミズムを表現しようとしましたね。間奏のソロも気に入ってます。

大塚
:構成的にも面白い。徐々に音が加わっていく流れを逆にたどるように、ベース、ドラムと一つずつ消えていってエンディングを迎える。俺も個人的にこのベースラインはかなり気に入っているな。

藤村
:これはみんないい演奏しているよね。

夏目
:割と難しい曲だからレコーディングに入る前は一番不安だったけど、うまくいった。

こういう一見さらっとした曲でこそテクニックの成熟が聞けるのかもしれないですね。

大塚
:それはあると思いますね。

夏目
:以前の曲でいうと「金太郎飴」とかにも通じているかもしれないけど、そこから更に進化していると思います。パーカッションやメロディの譜割りでちょっとラテンを意識していたりとか、意外と挑戦的。

大塚
:ベースもそれに合わせて、チック・コリアの「スペイン」とかのイメージだったりして。音作り自体もうまく出来たなと思っています。今回のアルバムでは各曲でベースの音色を変えて、曲キャラクターを考えながらプレイしていますね。

●6.Stuffed baby

菅原くんと夏目くんだけで録られている曲で、かなりシンプルでフォーキーな印象ですね。

菅原
:作曲に当たり、とりあえずワルツにしたいっていうのは決めていたのと、メンバーから、イントロがなくていきなり歌い始めるものが僕の曲であったら良いねっていうリクエストがあって。テーマとしてはかなりパーソナルな内容になっています。自分の持っているぬいぐるみに向けて書きました。
コピーされて作られたものだけど、確実にそこには魂が宿っていて、僕たちはちゃんと愛情を注げるんだ、という曲。「僕は悲しいことを知っている」っていう出だしの言葉が浮かんできて、自分自身ドキッとさせられたという出来事があって。

以前話してくれたように、菅原くんの音楽体験の中でいわゆる「フリーフォーク」ってすごく大きかったんだと思うんだけど、そのルーツを強く感じました。

菅原
:確かにそれはあると思います。みなさん、詳しくは『レコード・コレクターズ』を読んでください(笑)。

後ろに鳴っているサーッというノイズのような音も面白い。

菅原
:これはカセットテープが回っているように聞こえるかもしれないんですが、ビンテージのテープエコーの駆動音をマイクで拾っている音なんです。

夏目
:はじめに菅原がiPhoneで録ってきたデモがパーソナルな良い質感で。なぜかアコギが揺らいでいたんですよ。その世界観をスタジオ環境の中で表現するってテーマで録ったんだけど、かなりうまく行きましたね。

最後に入っている、ガチャというカセットレコーダーの停止ボタンを押したような音は?

菅原
:これは日向さんの洒落っ気ですね。あれも実際に僕がレコーディングした後にテープエコーの電源を落としている音なんです。

夏目
:その場で「これは入れるべきだね」って(笑)。

藤村
:あの音からカリフラワーに行く流れ好き。

●7.カリフラワー

これは前半のインタビューでも話してくれた通り、そこまで派手ではないんだけど、じっくりと噛みしめるような良い曲。

大塚
:そう。花が蕾が開く所をじっと見つめているような……。

夏目
:おお、バンビさんらしくないポエティックな表現が……(笑)。

大塚
:(笑)。不思議なんだけど、個人的に聞けば聞くほど好きになるような曲なんだよね。割と地味な曲って思われるかもしれないけど。

菅原
:この曲を良いって言ってくれる人はシャムキャッツのことを本当にわかってくれているって思う。これがわからないやつはまだシャムキャッツの本質がわかってない(笑)。

藤村
:(笑)

菅原
:俺らの旨味成分が詰まっている曲じゃないかな。

今の音楽シーンでいわれているいわゆるメロウっていうものとは異質の、シャムキャッツならではのメロウネスが溢れていると思います。

菅原
:実はこれも夏目が結構システマチックに作っていて。開放弦の響きを意識したアンサンブルを目指したよね。

大塚
:これはベースもかなり動いているんだけど、それも夏目がある程度指定している。そういうのもあって、あくまで歌を邪魔しない。

夏目
:曲は一瞬でできたんだけど、アレンジに凝った曲ですね。パソコンと睨めっっこしてオタク的に作った曲をバンドの力を借りて外に出すってイメージ。歌の質感はレコーディングし始めた時に既にイメージできていたので、楽器のプレイや鳴りはそこに寄り添う感じでいいかなと。

ボーカル音楽としての完成度の高さを感じます。みんなが歌とともに同じ方向を向いている感じ。ゆったりとした美味しいグルーブがあって、これもやっぱり演奏技術や作曲、それと曲全体を見通す力の進化が反映されているんだろうなと思いました。

●8.BIG CAR

「カリフラワー」がスウィートに終わったかとおもったら、いきなりすごく歪んだギターロックが飛び込んできてビックリする(笑)。曲調も歌詞もだけど、デカイとか速いとか、そういう上位概念がエラいみたいな男子的なノリを強く感じる(笑)。それってロックンロールの美学にそのまま通じることでもある。

夏目
:やっぱそこですよね(笑)。もちろん僕もフェミニズムや進歩的な考え方にも賛同するんだけど、それが原理主義的にいくところまでいくとどうなるんだろうなと……実は誰も傷つけていない保守的なロマンっていうのもやっぱりあると思ってていて。それを曲として残そうっていうっていう気分はあったと思います。

男子ならではのピュアさみたいなもの……?

夏目
:ピュアというかバカなところかな(笑)。「バカだねえ」っていう、それで許せちゃうのがいいなって。だからわざとサウンドも歌詞も男性的にしている。でっかい車に乗って、でっかい女を乗せて、でっかい夢を見て……とか、かなりバカバカしいんだけど(笑)。そういう今一番煙たがられそうな男性像。そういう人って無邪気でキラキラして見えるから、僕は。

曲調もストレートなオルタナティブロックですよね。それこそちょっと懐かしさを感じるくらいの。

夏目
:そうそう。これ、実は当初もっとウィルコっぽいメロディーが載ってて、歌詞ももっと思慮深い感じで……。

菅原
:ネオアコ風ですらあったよね。

大塚
:あれはあれで好きだったんだけどね。

藤村
:おれもあれ結構好きだったよ。

菅原
:でも今やるならやっぱりこっちだったんだよなあ。

夏目
:ウェルメイドにしていく音作りだと曲自体に全然合わなくて、歌入れ直前に急遽方向転換しました(笑)。

●9.僕はヒーローに今からなるさ

-テンポ感もぐっと落として音の隙間も広げて……シャムキャッツにとっては新基軸曲ですよね。俺はレコーディングのときから、アンビエントR&Bのようだねって言ってましたが、そういう意図は実際にあったんですかね?

夏目
:最初は曲の構造に対して倍のリズムで上モノが乗るっていうのやりたいと思って作り出した曲ですね。それこそトラップのような。でも、結果進めるうちにネジ曲がっていって、一言ではいい難い曲になりました(笑)。

菅原
:でも、ボーカルの一部が実際に倍のリズムになっていたり、当初の狙いの名残はありますよね。俺のギターも割とそのあたりを意識しました。細かいフレーズを急に入れたり、逆に一音をすごく伸ばしたりとか。これは個人的にもとても気に入っていますね。シャムキャッツって、今までこういうことやろうと思ってもあんまりかっこよく出来なかった気がするけど、今回はうまく行ったと思う。

大塚
:デモからレコーディングまで時間がなかったからアレンジに煮詰まり過ぎずかえってよかったのかもしれないね。

藤村
:それはあるね。

夏目
:デモ作り期間の後半くらいからかなり遊び始めてたので、どうせ遊ぶんならめちゃくちゃ遅い曲を作ろうっていうのもあった(笑)。

菅原
:ウクレレの音が入っているのも遊び心があって面白いですよね。ポロッと可愛い感じが出ているというか(笑)。

ここ数年のブラックミュージックのオルタナティブな動きみたいなものと、そこまで強く意識しているわけじゃないんだろうけど符合しているのが面白い。歌詞の面でもそれは感じる。フランク・オーシャンとかも、音としてはすごくクールなように聞こえるけど実際歌詞が情けなかったりしますよね(笑)。そこにも通じる気がして。「ヒーローに今からなる」っていうすごく男の子的歌詞なのに、この曲調っていうアンビバレントさがとても面白い。

夏目
:歌詞の面で言うと……個人的にスパイダーマンの映画シリーズがすごく好きなんですけど、あれを見てて、ヒーローだって一般人っていうのって、やっぱいいなあっていう。 その少年は、いっぱい人を助けているヒーローなんだけど、一番大事にしなきゃいけない恋人とうまく行っていない。しかも、その恋人は自分のことをヒーローだってまだ気付いていないっていう、あの黄金の設定(笑)。

「静かなるドン」のやつだ(笑)。すごく男子的なロマンをくすぐるパターンの(笑)。

大塚
:メンバー全員で歌っているってのも、それぞれの市民もヒーローなのかもしれないみたいな感じが出てて面白い(笑)。

●10.あなたの髪をなびかせる

-学校のクラスルームの風景が映像として浮かんでくるような世界で、あえて言うならすごくJ-POP的ですよね。曲自体もとてもポップ。

菅原
:そうですよね。中学生のときに頑張って洋楽のアルバムを聴いて、ほとんどよくわからないんだけど一曲だけ「これちょっといいじゃん」みたいなのってあったと思うんですけど、これからシャムキャッツを聞く若い子達に対して、そういう役割になればいいかもなって。歌詞も「完熟宣言」と一緒でじっくり読む必要はなくて、そのまま聞こえてきて意味がスッと入ってくるようにしたいっていうのもありました。

菅原くんって、マニアックかつ理知的に曲を突き詰めていく印象があるので、ちょっと意外な感じがしました。

菅原
:いや、僕は結構そういう振り切れてポップな志向もあるんですよ(笑)。マニア的に突き詰めていく部分と、こういう思い切り突き抜けたものを作りたいっていうのが自分の中に両極端にある感じ。だからこそシャムキャッツをやり続けているんだよなとも思います。シャムキャッツってこういう想いをまっすぐ届けられるポテンシャルを持っている。

たしかに、リスナーとしてもすごくポップなものも好きだよね。

菅原
:そうそう……。ちなみに……この曲は僕の中では応援歌のようなもので。学校や会社の中でもそうだけど、ちょっと普通から外れてしまっているように見えるせいで生きづらそうにしている人たちに向けての曲というか……。例えば、すごくだらしない恰好をして、余計なものがたくさん入ったパンパンのカバンを持っている人がいたとして、一般的には白い目で見られるかもしれないけど、そういう人にすごく可愛らしさを感じてキュンとしてしまう瞬間ってあると思うんです。少なくとも僕はそうなんです。だから、異質と思われがちな存在にもちゃんと眼差しを向けていく……そういうこともテーマとしてあったりする。あとは男の子、女の子、どちらが歌っても成立するような歌詞の作り方をしました。

なるほど。そういうテーマを知ると、「単純にポップだね」という感覚では捉えられない魅力を感じます。

菅原
:これはメンバーみんなが自分たちの演奏を気に入ってないみたいだけど(笑)、僕はかなり好きですね。

夏目
: J-POPっぽいってのがずっと自分の中でひっかかってしまっていたんですよね。正直に言うととっかかりがないままレコーディングに入ってしまったようなところがあって……。俺の中で今シャムキャッツでやらなくてもいいかなっていうゾーンだったから、どう料理するのがいいのかなあっていうのもあったんだけど……。

菅原
:だから、これはもしかしたら収録曲から外されるかもしれないという危惧もあった(笑)。

でも、そういう懸念が曲順によって完全に解消された気がしますね。ユニークな2曲に挟まれたこの位置にあってこそ、曲の持つストレートな魅力が伝わってくる。

大塚
:そうそう。

夏目
:結果的にはやっぱり入れてよかった。俺の中では、アルバムに入れることによって、ライブを重ねていってどうなっていくか見てみたいなというのも大きかったですね。

藤村
:おれはさっき菅やんが話した歌詞のコンセプトを聞いて全部納得いった感じがありますね。

夏目
:そういう曲って、やっぱり最終的に入れたほうがいいんだよね。そうじゃなきゃ、どっか縮こまった感じのアルバムになってしまうから。

●11.まあだだよ

-この後に続く2曲が既発曲ということもあり、この曲が一旦のアルバムの締め括りという感じもします。前曲の爽やかさから一転……

大塚
:めちゃくちゃ落差ありますよね(笑)。アルバム後半はそういうギャップが続く(笑)。

藤村
:ここのまたぎが一番ビックリするね。ぜんぜん違う質感が現れてくる(笑)。

とてもポップな曲のあとに、全く異色の曲を置くっていうのって、ロックアルバムの美点として脈々とあるよね。

夏目
:まさに俺たちが愛しているやつ(笑)。

これはやはりリズムボックスの音色が印象的です。

夏目
:デモの段階では「ポッポポッポ」っていうリズムを適当に打ち込みで鳴らしてたんですけど、やっぱりいいリズムボックスの音を使いたいなあと思って。で、ayuくん(ayu inotsume)に貸してもらって録りました。
この曲、実を言うと最初は保険的な感じで……「もういいよ」って曲があるから「まあだだよ」っていう曲を作っておけばアルバムとしてなんとかまとめ上げることが出来るんじゃないかっていう狙いがあったんですよ。

そうだったんだ。たしかにレコーディングの終盤で持ってきた曲だよね。
サウンドはユニークだけど、歌われている内容はバンドの気持ちが素直に出ているという構造も面白い。

夏目
:やっぱりアルバムに一曲くらいはバンドについて素直に歌うものがあるといいなと思ったんですよね。今の僕たちついてのドキュメント的な……。

大塚
:僕らの状況を包括的に表現している感じがありますね。だから、曲順的にも終盤に入れているんだと思います。
それと、曲の途中にカットインして全く別のパートが入ってくるっていう構成も特徴的だけど、実はこのアルバムってそういう構成の曲がほかにも割と多い。「逃亡前夜」みたいな感じの打ち込み的なものも内包しているし、「もういいよ」的なゆったりと踊れるようなものも内包している、そういう意味でも包括的。

夏目
:最近俺の中で流行っているこのアルバムの聞き方があるですよ。「逃亡前夜」で「ぱっと気が晴れる場所へ出かけて踊ろう」って言っているバンドが、実際にそういう場所に出かけて演奏しているのがこの曲だって妄想しながら聞くっていう(笑)。

●12.Cry for the Moon

-これは落日飛車とのスプリット・シングルで先行リリースされていた曲ですね。タイトルや歌詞を意識せずに聴いても、音だけでこれだけ夜っぽさを表現できるんだなという驚きがあります。

夏目
:うん、それは俺も思う。

菅原
:山口さんがいなくなったとき、みんなで中野のガストに行って、これからどうするかって話をしたことがあるんですけど、まさにこの曲はその日の夜に産まれたんです。ちょうど皆既月食の夜で、帰り際、「いつも見えている月なのにこうやって簡単になくなちゃんうんだ……」と思って。それに山口さんを重ねたっていう……。

藤村&

大塚
:いやあ、めちゃくちゃエモいなあ(笑)。

菅原
:ちなみに、「Cry for the Moon」って英語の慣用句で、「ないものねだりをする」って意味なんですよね。

マイナー調であるというのも、夜っぽい幽玄さや、喪失感を表しているような気がします。

菅原
:これはピアノで作ったから和音が特殊な響きになっていて、そういうテイストが出たんだと思います。自分でも和音構造を理解しなくちゃだし、ちゃんとみんなにも説明する必要もあるし、なかなか大変な作業でした。あと、夜っぽい質感ということでいうと、古いシンセサイザーを新しく買ってその音を入れているので、そういうのも効果を発揮しているかもしれないですね。

大塚
:ドラムとベースの質感も菅さんの明確なイメージがあったよね。

菅原
:そう。アジアで今大流行しているシティポップブームへの、僕なりの回答みたいなところもあって、80s感をあくまでも流行に乗らないスタイルで取り入れたいと思いました。その時代を象徴する、ゲート・リヴァーブの元祖といわれるピーター・ガブリエルの「Ⅲ」をみんなに聴かせたりしたよね。

●13.このままがいいね

-そして最後、まさ映画のエンドロールかのような大団円感をもって「このままがいいね」が流れてきます。シングルでも発売済で、これがアルバムの中では一番古い曲だからそういう意図はなかったのかもしれないけれど、バンドによるこれから意思表明的な意味にも聞こえてきます。今回アルバム収録に際して、ミックスを変えましたよね。

夏目
:そうですね。はじめにシングル用に録音してある程度自分のイメージ通りになったけれど、でも何か足りないなっていうのがあったんです。それに気付けたのは今回のアルバム制作にとってとても大きかったかもしれないですね。バスドラやスネアの質感とか、ボーカルをどういう風に乗せるかっていう部分……。そのあたり、やっぱり欧米のバンドに比べて僕ら日本のバンドはまだ下手だなって思ったんです。もうちょっと精度を上げて、最初からどういう音像にするかってちゃんとイメージしてレコーディングに挑まないと従来の僕らの音にしかならないなと思って。
だから、今回ミックスをやり直したっていうのはそこが理由だし、エンジニアの日向さんも「やっぱり今聞くとまだまだ甘いな」って言っていて。

大塚
:アルバム制作が終盤に向かうにつれて、「このままがいいね」を入れるとしたら再度ミックスをしようという空気が共有されていったよね。

夏目
:そういう意味で、「このままがいいね」を聞くと、この一年間で俺たち成長したなっていうのを感じる。もちろん最初からアルバムにも入れるべきだなって思っていたし、入れるべきアルバムになるんだろうなとは思っていたんですが、オーラスに来るとは思ってなかったなあ。

藤村
:この一年間のテーマ曲みたいな部分があるね。

いろいろ大変なことが起きる前に書い曲だけど、意図せずそうなっている……。

藤村
:まさしく。

ライブを見ていると、この曲に対するお客さんからの反応ってとても熱いものがあるし、バンドとって更に大事な曲になっていくんじゃないかなと思います。

●アルバムを作り終えて……これからのこと

この『Virgin Graffiti』のリリースを経て、今バンドのモードがどんどん前向きになっていると思うんですけど、次はどんなところに向かって行きたい?

夏目
:僕は、音楽的にグンと出るべきところはもっと前に出していくというか、アグレッシブさを増していきたいと思っています。『Friends Again』よりも、やっぱり『Virgin Graffiti』の方がフレッシュだし、そういう音楽的に飛び出してくる感じもあると思うんですよ。その濃度と精度を上げればもっともっとみんなに響く音楽がが作れる気がしている。

既に具体的なアイデアがあるって言ってたよね。

夏目
:そうです。各プレイヤーの個性が今よりもっと出たほうがいいと思っているから、そういう曲が書ければいいなって思っています。それこそ、バンビがずっとスラップしているとかね。

大塚
:(笑)。

夏目
:『Virgin Graffiti』ってやっぱりすごくロックっぽいって思ってて、それは僕らならではの良さだと思うんです。今後ももちろんロックを演り続けたいけど、やっぱりお客さんを揺らしたいって気持ちがあるから、引き続きダンスミュージックを聴いたり人の体を動かすっていうのはどういうことなんだろうってことも考えたいな、と。

大塚
:これからツアーが始まって『Virgin Graffiti』の曲をライブで披露することになるんですけど、より自然と体を揺らしてもらうような強度を持つバンドに成長していきたいなっていうのはありますね。それはもちろん今までも思ってきたことだけど、より強く思う。体として踊らなくても思い思いに気持ちを踊らせてくれれば嬉しい。そういう意味でも自分たちの演奏をフィジカル面からもっと詰められるところは沢山あるなって思っています。

菅原
:僕も同じようなことを考えています。あと、夏目のボーカルも僕のボーカルも、次はウィスパー的なニュアンスよりも歌い上げる感じの曲になりそうな予感が勝手にしていて。

夏目
:ほほう。面白いね。

菅原
:それも今夏目とバンビが話したバンドのフィジカルを高めるっていう方向性と符合すると思うんです。それをタイトなリズムに乗せることで、さらに強度を増していきたい。

たしかに夏目くんと菅原くんの歌の強度がグンと増したっていうのも『Virgin Graffiti』の特筆すべき部分だから、一層今後が楽しみだな。

菅原
:あと、ギターもリヴァーブをあまりかけない方向にしたりとか、そいういうロウな質感の中でいかに勝負できるかっていうのはある。

藤村くんは?

藤村
:まさに今みんなが言っていたようなことですよね。タイトさを意識していくっていうのは重要だなって思っています。その中でダイナミックなプレイをしていくのが自分の仕事だと思いますね。

菅原
:たしかに、頼さんが思いっきり叩いた日のいライブって、みんな「すげーかっこよかった!」って言うんだよだあ。

夏目
:それと、藤村やバンビがメインボーカル取る曲もリアルに次あるかもしれないですし。

大塚くんと藤村くんも曲を書いていこうって話もあったよね。

藤村
:そう。創作をやりたいなあと思いつつも……この一年は今までにも増して、本当に目まぐるしくて時間が…(笑)。今はとにかく色んなものをインプットしていきたいなあと思っていますね。それがいつか出せればよいけど……。

大塚
:いやあ、ホントにみんなの働きで2018年を乗り切ってきた感じがあるよね。

菅原
:その反動でみんな今よりもっとクリエイティブな力が発揮されるかもしれないよ(笑)。


Interview A&Rディレクター 柴崎祐二
Photographer 嶌村吉祥丸
Creative Director 山中俊太朗 (althouse)
Site Design PRMO